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物流、建設、医療を直撃! 「2024年問題」のもたらす影響と事業者の対策

あと1カ月を切った「2024年問題」。報道等で見かけた方も多いのではないでしょうか。
今回の記事では、その概要ともたらされる影響、そして各業界の事業者はどのような対策に取り組んでいるのかを、当社のシンクタンク組織「MJS税経システム研究所」の客員研究員であり、社会保険労務士の加藤 千博先生にお聞きしました。

加藤 千博(かとう・かずひろ)先生

【プロフィール】
ファッション関連会社、不動産会社、飲食店(イタリアンレストラン)、デザイン企画会社など多くの会社経営に携わり、同時に従業員の福利厚生を向上させるため、人事評価制度設計、賃金制度設計なども追求。2010年、コンサルティング会社 センズプランニング設立。13年、社会保険労務士法人 加藤マネジメントオフィス設立。17年よりMJS税経システム研究所 客員研究員。


自動車運転業務、建設事業で人材流出の可能性

――特に最近、急速に関心度が高まっている「2024年問題」とはどのようなものでしょうか?
加藤 千博先生(以下敬称略) 2019年4月に施行された働き方改革関連法において、「時間外労働の上限規制」が大企業では2019年4月から、中小企業では2020年4月から適用されました。
ですが諸般の事情から、4つの業種(自動車運転業務、建設事業、医師、鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業)については適用を5年間猶予され、新技術などの研究開発業務は適用を除外されました。
報道等で騒がれている「2024年問題」とは、5年間猶予された業種に、2024年4月1日から「時間外労働の上限規制」が適用されることで生じる様々な問題のことをいいます。

時間外労働の上限規制

――中でも自動車運転業務、建設事業、医師への影響が大きそうですね。
加藤 はい。特に自動車運転業務、建設事業において懸念されているのが、“人材の流出”です。
実は働く側にとっても、労働時間に上限が設けられることは必ずしも望ましいわけではありません。
例えば建設事業ですと、いまだに日給制や週給制のところも多くて、残業も含めてですが“働けば働くほど稼げる”わけです。そこに上限が設けられると、今までほど収入を得ることができない。そこまで稼げないのであれば、他の仕事に就こう。そう思う労働者が増えることが懸念されているのです。

また、医師からは困惑の声を聞きます。医療は日進月歩。常に自身の知識と技術を高めていく必要があるのですが、勤務中は診療に集中するため、どうしても時間外に研鑽を積むことになります。その時間と、時間外労働の境目をどう考えればいいのかが課題となっています。

各業界でとり得る対策

――自動車運転業務における課題と講じられている対策を教えてください。
加藤 時間外労働の上限制限について、自動車運転業務では次のように緩和されています。

自動車運転業務の緩和内容

月々の時間外労働の目安は80時間ですが、例えば100時間以上になったとしても、月ごとの制限が設けられていないため、他の月で調整して年間960時間に収めればよいことになります。
この規制に加えて、自動車運転業務では、ドライバーの労働条件の向上を図るため、拘束時間や休憩時間、運転時間などの基準を定めた「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(厚生労働大臣告示)も遵守しなければなりません。

従来の運用の中でこれらを順守すると、ドライバーの売上、さらには会社の売上も減少する可能性が高いと言われています。
これを回避するためには、仕組みを変えていく必要があります。

輸送においては、荷主と事業者が連携して解決を目指す方法があります。荷主側としてもドライバーの稼働が低減し計画通りに物が運べなければ自社の経営に影響が出るので、協力を打診する意義は十分にあります。
 
例えば、ドライバーが到着後の荷積み、ないしは荷降ろしです。せっかく目的地に着いてもすぐに荷物を積んだり降ろしたりできず、待ち時間が発生する。これが労働時間の長期化の原因の一つになっています。
荷主のほうで現場の運用を見直し、また場合によっては積み降ろしをサポートしてもらうなどすると、効果が期待できるでしょう。
 
他方、事業者間で連携を図る動きもあります。「中継輸送」という方法で、A事業者が中間地点まで、そこからバトンタッチしてB事業者が最終目的地まで運ぶといったものです。
 
――建設事業、医師での対策はいかがでしょうか。
加藤 建設事業では、時間管理を徹底することが肝要です。
例えば、私の顧問先でクレーンのオペレーターを多く抱えている会社があるのですが、駐機場へ朝出勤し、現場までそれに乗っていく。終業後はクレーンを駐機場まで戻す。その行き来の時間を曖昧な扱いにしていたところがあります。こういった部分の管理も今後は必要です。
デジタルタコグラフという走行時間や走行距離を記録するツールなどを使えば、そういった時間も集計できます。

また、勤怠管理という面では、建設事業は現場仕事なので、出退勤をタイムカードで管理することは現実的ではありません。今ですとスマートフォンで管理するという方法もありますが、現場には70代の方などもいて、ガラケーしか持っていないと。
そうなると、現場での作業報告書と連携し、ある程度時間を推測するような方法になってくるのかもしれません。

他にも、建設事業で長時間労働を防止するためには、「適正な工期設定・施工時期の平準化」が重要です。そのために受注側の企業だけではなく、発注者と協力して工期を適切に管理することが求められます。

医師では、勤務医の時間外・休日労働時間の上限について、一般の労働者と同程度である960時間が上限(A水準)となります。
しかし、地域医療の確保などの必要からやむを得ず時間外・休日労働時間が年960時間を超えてしまう場合には、都道府県に届け出をして指定医療機関となることで、その上限を年1860時間とできる枠組みが設けられます。

出典:厚生労働省「医師の働き方改革 2024年4月までの手続きガイド」

A水準を超えるような医師の健康を確保する観点から、月100時間以上になると見込まれる医師に対する面接指導や、退勤から翌日の出勤までに原則9時間を空けるルール(勤務間インターバル制度)などを、医療機関の管理者へ義務付ける措置が規定されています。

利用者側にも意識改革が求められる

――5年の猶予期間があったとはいえ、全ての事業者が徹底順守するのは簡単ではなさそうですね。
加藤 違反した場合、罰則として6カ月以下の懲役、または30万円以下の罰金が科せられる恐れがあります。
仮にすぐに遵守できなかったとしても、諦めずに改善する努力が必要です。
場合によっては労働基準監督署の調査が入り、是正勧告を受けます。例えば「半年後までにこのように是正してください」と。そして、毎月のように是正の状況を労基署に報告することになります。
その指導に従って努力することが大切です。

――厚生労働省のホームページでは、2024年問題に対して特設サイトをつくり、当該業種がどのような取り組みをすればいいか、事例も交えて掲載しています。
加藤 徹底して情報を収集すればかなりの知識を得られると思うのですが、経営者の方がそこまで時間をかけられるのか、全てを網羅できるのか、そしてそれを現場に落とし込んで体制を構築できるか。ハードルはなかなか高いですよね。

――確かに。やはり先生のような専門家の方に相談するのが一番の近道かもしれませんね。
加藤 そうですね。そして、利用者の側も意識改革が必要になると思います。
例えばECサイトで通販を利用される方も多いですが、翌日までにどうしても届かないといけないものがどれだけあるか、といった視点です。
海外と比較すると、日本の物流は驚くほど整っています。しかしその裏には長時間の労働によって支えられている部分もあります。

建設事業においても、労働環境整備の観点から週休2日制が徐々に進められています。
大手企業が率先してそのような宣言をしてきていますので、中小企業においても生産性を向上するとともに適正な労働時間を目指した取り組みが今後求められるでしょう。

――2024年問題を機に、これまでの「当たり前」を見直す。そんなことも考えるべきなのかもしれませんね。加藤先生、貴重なお話をありがとうございました。

今回は目前に迫った2024年問題を取り上げました。
なお、加藤先生にはMJSコーポレートサイトにて、毎月「労務管理トピックス」というタイトルで寄稿いただいていますので、ぜひご覧ください。

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