あなたはどっち派? 事前に資産を譲ることができる「生前贈与」の2つの方法を徹底解説!
超高齢社会の日本では、「相続」に注目が集まっています。
事実、税理士の先生方とお話をしても、相談案件が増えているそうです。
その相続ですが、「生前贈与」という方法で予め資産の一部を譲ることができます。
譲り受ける側の人であっても、この方法を知っていると、贈与者の方とそのスキームを共有し、事前に相続税対策を考えられるので有意義です。
今回は当社のシンクタンク組織「MJS税経システム研究所」の客員研究員で、税理士の武田 秀和先生に、2024年1月に施行された、生前贈与と相続税の2つの制度改正についてお話を伺いました。
毎年110万円の基礎控除が創設された
相続時精算課税とは
相続人に課税される相続税は、「資産移転の時期の選択に中立的な税制」を本来の姿とし、承継する財産(いわゆる遺産のこと)だけではなく、生前に受けた贈与財産の価額も含めて相続税の計算が行われます。
具体的には「暦年課税における相続開始前3年以内の贈与財産の価額を相続税の課税価格に加算する制度(いわゆる歴年課税)」と、「相続時精算課税制度」という2つの制度が構築され、選択できるようになっていました。
それを2023年度税制改正にて“より中立的な”税制の構築がなされました。
暦年課税においては、これまで死亡日以前3年間に贈与された財産は相続税の対象となる「生前贈与加算」が、7年へと延長されました。
また、相続時精算課税制度※1には、新たに110万円の基礎控除が創設されました。
2003年の創設時、相続時精算課税は暦年課税※2の「特例」程度での滑り出しでしたが、2,500万円の特別控除が大きく影響したことから当初は適用件数が伸びていました。しかし、近年はその数が少なくなっています。
相続税は、「生前の贈与財産をできるだけ相続財産に取り込む」方向で税制が構築されていますが、我が国では息切れしています。その理由は、次の通りです。
①相続時精算課税は相続税対策に全く使えない
②同制度の届出書を提出した年分以後、少額の贈与財産も全て相続財産に加算されるので、調査で多額の申告漏れを指摘される可能性がある
③費消した財産についても贈与財産の価額を加算しなければならないので、いつ発生するか分からない相続税を考えなければならない
中でも②の不都合を解消すべく、相続時精算課税の計算および相続財産に加算される金額が次のように改正され、2024年1月1日以後に取得した財産にかかる相続税または贈与税に適用されるようになりました。
(1)相続時精算課税適用者が相続時精算課税適用に係る贈与をした者(以下、特定贈与者)から贈与を受けた場合、基礎控除110万円が適用可能に。ただし、暦年課税の基礎控除とは別に適用
(2)特定贈与者の相続財産としては、基礎控除額を適用した残額を加算。つまり、各年で見て基礎控除以下の金額ならば加算の必要なし
(3)相続時精算課税を適用して贈与を受けた土地または建物が、特定贈与者の相続税の申告期限までに、災害によって一定の被害を受けた場合、贈与を受けた時の価額から被害を受けた金額を控除した残額を課税価額に加算
※1
受贈者が2,500万円まで贈与税を納めずに受け取ることができ、贈与者が亡くなった時に残りの資産と併せて相続税を算出し納税する制度。※2との併用は不可
※2
1年間に受けた贈与に課税される方式。年間110万円の基礎控除が使える
歴年課税は7年遡ってカウントされるように
歴年課税では、相続開始前「3年以内」に贈与によって取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算する制度が「7年以内」に延ばされました。ただし、相続開始前3年を超え、前7年以内の贈与により取得した財産の価額の合計額からは100万円が控除され、残りの金額を相続税の課税価格に加算することとなります。
相続開始前7年前の贈与財産は、贈与税の申告の有無にかかわらず、また受贈財産価額にかかわらず全て加算の対象です。しかし、前3年を超え、前7年以内に贈与により取得した財産が少額なものについてまで訴求して全て加算の対象とすることは、実務的ではないと判断されたのでしょう。この期間の贈与の合計額から100万円を控除することにより煩雑な課税処理を回避したものです。相続開始前3年以内の贈与は従来通り、少額な財産も加算します。
暦年課税と相続時精算課税はどちらが有利か
相続財産に加算する分岐額をチェック
最後に、2023年度税制改正の影響と検討事項を見ていきます。
ポイント.1
これは資産移転の時期の選択に中立的な税制への移行の第2ステップである
贈与加算年の延伸が唐突のように思われますが、相続時精算課税を導入した2003年の『改正税法のすべて』(大蔵財務協会編)において、既に「資産の移転時期の選択に対する課税の中立性を確保する」との記述があります。
制度の導入を第1ステップとするなら、2023年度の改正は、その相続時精算課税に110万円の基礎控除を導入して利用しやすくし、暦年課税の加算を7年に延伸したことにより使い勝手を悪くした第2ステップと言えます。相続税対策のメニューに、アメとムチを並べたようなものです。
ポイント.2
暦年課税と相続時精算課税を比較するには生前贈与の価額に注目せよ
世間では、暦年課税と相続時精算課税のどちらが有利かという議論が活発なようです。
相続開始前7年以内の贈与財産は全て相続税の課税価格に加算されることになりました。加算期間が延長されたことで、効果的な相続税対策としての暦年課税の活用をためらわれるかもしれませんが、先を見越した早期の贈与活用の有用性は失われたわけではありません。
相続時精算課税は、受贈財産価額をそのまま相続税の課税価額に加算する制度でしたので、相続税対策になりませんでした。それが改正により毎年110万円の基礎控除が適用できるようになり、例えば60歳から男性の平均寿命である約80歳まで20年間贈与すると、2,200万円が相続税の課税対象となりません。検討の価値ありですが、気の長い対応となります。長期的対応なら原則通り暦年課税をうまく活用することも十分検討しましょう。
長生きを前提に、図3のような表を作ってみました。10年に渡って同額を贈与した場合の、相続税への加算額の比較表です。何年間、どの程度、受贈するかで、どちらの制度がより相続税対策になるのかは様々です。
一方で、相続税は親又は祖父母の相続開始を前提としていることから、当人を抜きにした対策に精を出すよりも、当人を交えて検討した方が、「資産移転の時期の選択」としては適当ではないでしょうか。
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武田先生、生前贈与と相続税について分かりやすくご解説いただき誠にありがとうございました!
暦年課税か、相続時精算課税か…。関わる方々の状況と考えによって選択は変わるのでしょうが、相続がより身近になるこれからの時代、今一度望ましいあり方を熟考するのもよいかもしれません。
このテーマのより詳しい内容は、当社会計事務所のお客様向け広報誌「税理士事務所CHANNEL」2023年12月号の特集にてご紹介しています。
ご興味を持った方は下記URLにアクセスしてください。
https://www.mirokukai.ne.jp/channel/genre/series/2312outlook/
皆さま、最後までお読みいただきありがとうございました!