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「金利のある世界」を生き抜く

2024年3月に「マイナス金利政策」が解除され、同年7月には追加利上げによって政策金利が 0.25%に引き上げられました(注)。これにより短期プライムレートも上昇し、多くの企業がその動向を注視しています。

(注):その後、2025年1月の金融政策決定会合で政策金利は0.5%程度に引き上げられました

そこで、今回の記事ではマイナス金利解除や追加利上げの背景及び中小企業への影響、そして中小企業が講じるべき対策などについて、第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミストの永濱 利廣様に伺いました。

永濱 利廣(ながはま・としひろ)様
第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト

円安是正を目的としてマイナス金利政策を解除

2016年1月にマイナス金利政策に踏み切るまで、日本銀行は2013年から量的緩和政策を軸に円高の是正に努めていました。
量的緩和政策とは日銀が民間金融機関から国債を買い取り、市場に資金を供給する手法のことです。

しかし、この政策では限度がありました。というのも世に出ている国債には限りがあり、効力そのものに限界があったのです。

そして、2015年の後半くらいになると円高が大きく進行するに至りました。そこで、日銀は量的緩和政策以外の方策を模索し、当時、ヨーロッパで実施されていたマイナス金利政策を導入することにしたわけです。
つまり、マイナス金利政策も量的緩和政策も、その目的は円高是正にあったのです。

そして、今度は円高ではなく、円安を是正するために2024年3月にマイナス金利政策が解除され、政策金利が0.1%に引き上げられました。
ここで重要なのはマイナス金利解除と追加利上げは別物だということです。
マイナス金利解除の時点では企業経営に大きな影響を与えることはないとみられていました。これは企業に影響を及ぼす短期プライムレート(企業向けの短期融資に適用される基準金利)が上がらないとされていたからです。

これで終わっていればよかったのですが、日銀は2024年7月に追加利上げを決定し、政策金利を0.25%に引き上げました。これにより短期プライムレートが上がり、企業経営にも影響が生じることになったのです。

この追加利上げはマクロ経済の観点からみると拙速感が否めません。
円安を是正し、インフレを抑える効果があったとしても、経済が過熱していない状況で追加利上げをすると、金融に強烈な逆風が吹き、経済の足を引っ張ることになってしまうからです。

「ダム論」を参考に追加利上げの是非を問う

日銀の追加利上げの妥当性を検討する上では、2000年代初頭のゼロ金利政策解除時に話題になった「ダム論」※1が参考になります。
そこで、今回の追加利上げの妥当性を検討するために、ダムの水量を示す企業収益とダムの高さを示す家計所得、ダムの水圧を示す個人消費を検証してみたいと思います。

※1「ダム論」とは、企業の収益が改善してきていることをダムに水が溜まっていることにたとえ、溜まった水がダムから放水されるように、企業の利益が家計に分配され始める時期を指す経済用語(図2参照)

まずは「ダムの水量」(企業収益)をみてみましょう。

財務省の法人企業統計季報によると、経常利益は大企業も中堅・中小企業も2020年4-6月期を底に、2024年1-3月期には1985年4-6月期~2024年1-3月期において過去最高を更新。
設備投資などの低下に加えて、商品・サービスへの価格転嫁などに伴い売上高が増加することで利益が創出された結果と考えられます。

また、必ずしも人件費や販管費などのコスト削減が主導しているわけではないため、ダムの水量はそれなりにあるといえます。

次に「ダムの高さ」(家計所得)をみてみましょう。

財務省の法人企業統計季報を基に労働分配率※2を計算すると、大企業ならびに中堅・中小企業とも歴史的水準まで下がっており、利益増に比して人件費を増やしていないことが分かります。
これは実質賃金が2年以上マイナスを続けていることからも明らかです。つまり、ダムの高さが当初の想定以上に高く、物価と賃金の好循環はまだ道半ばということになります。

※2「労働分配率」=人件費/(人件費+営業利益)

そうなってくると当然、「ダムの水圧」(個人消費)も乏しく、実質雇用者報酬が大きく減少する中で、実質個人消費も落ち込んでしまっているということになります。

そして、こうした事実の背景には①企業の積極的な価格転嫁の割に労働者の賃金上昇が不十分な上、実質賃金の低下が大きな制約要因になっている、②たび重なる税と社会保険料の負担増により、実質購買力(可処分所得)が削がれている、といった事情があると推察されます。

これらの状況を総合的に考慮すると、ダムの水量はそれなりにあるものの、ダムが高すぎる(労働者への分配が十分に進んでいない)上に水圧が弱く、当面は家計所得や個人消費の増加は望めないという結論に至ります。

また、経済協力開発機構(OECD)の世界経済見通しの中間評価(2024年9月発表)をみると、2024年の日本のGDPの実質成長率はマイナス0.1%と、主要7カ国では唯一のマイナス成長となっています。
マイナス成長の中で利上げをする国はあまり聞いたことがありません。

こういった点からも日本経済は過熱状態にはないわけですから、今回の追加利上げがいかに時期尚早だったかをうかがい知ることができます。

追加利上げ後の世界にいかに対応していくか

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